2012年1月3日火曜日

発声のために:日本古武道の身体意識

NHKのBSで「侍スピリット」という海外向け番組の再放送があり、大変興味深く見ました。
案内役の格闘家ニコラス・ぺタスさん(18歳で来日し、極真空手道場入門、元欧州空手チャンピオン、38歳)は自分が「勝つ」ために習ってきた「空手」について、その究極の目標を「沖縄空手」の中に見出したようでした。それはまったく異なる「空手」。その目標は、ひたすら「型」の鍛練を通して、他人の痛みを知り、自身のコントロール力を磨くことだそうです。
この番組には、運動科学研究者の高岡秀夫さんも出演されていました。
以前に、「身体意識を鍛える」という高岡さんの著書を読んだことがあります。発声に必要な身体イメージを求めていたころ読んだ本です。
内容は、適切なトレーニングをすることで身体意識を高め、より無駄のないバランスのとれた心と体を作ることができる、というものでした。
「武道」のどのジャンルでも「ふんばらない」「押さない」「引かない」という、常に流動可能なスタンスを保っています。
合気道では、相手の力の流れを意識し、その力を利用しつつ力の流れをコントロールする様子が分かりやすく説明されていました。
どれをとっても、これはつぎのことを意味しているように思えます。
大切なのは、全身の部位がいつもリラックスしていて、次の動きへのスタンバイ状態でいることです。
そのことが腑に落ちる経験があります。
少し前まで、ジャズミサの第5部「Agnus Dei」のアルトのソロ部分は、普段出さない音域で、なかなかブレずに響くロングトーンを出せませんでした。
先生は「ドラム缶になったつもりで」「口、のど、気道、肺、お腹を広く太く開けて」と指示。でも息の通り道は意識すればするほど緊張して、思うように発声できませんでした。
そこでほかの考え方を模索しました。
たどり着いたのが、腹筋・背筋・側筋(脇腹の筋肉)を大きな口(唇)に見立てたイメージです。大きな唇からは大きな声や小さな声が自在に繰り出される、そんなイメージです。
これはかなりの改善をもたらしてくれました。
全身の身体感覚を持ちながら、声は以前より響き、クレシェンドのコントロールもより楽になった、ように感じました。身体感覚が全身のバランスを維持することで、必要な動作をそれぞれ的確に、流れに乗せられるのかもしれません。
先生は「よく出たわね、出しにくい音なのに。アルトさん、がんばったね」と、うれしいお言葉をくださいました。
この「唇」を忘れると、すぐ以前の失敗を繰り返します。
これも訓練でしょうか。